損害賠償の請求は、原則、①加害者が被害者に賠償を行い、②支払った分を加害者が自賠責保険に請求する、という流れになります。つまり加害者請求が原則なのです。
しかし加害者と慰謝料でもめて示談ができなかったり、示談ができても加害者が不誠実で損害賠償金を支払わないといったケースもあります。その場合に被害者が困らないための救済措置として、仮渡金と内払金を受け取るという方法があります。

 

自賠責保険の仮渡金の請求とは

被害者がケガなどによって11日間以上の治療が必要であって、加害者から損害賠償の支払いを受け取っていない場合、当面の医療費・生活費に充てるため被害者は自賠責保険に仮渡金を請求することができます。10日以内の治療期間の場合は受け取れません。
被害者1名につき、傷害の程度に応じて40万円か20万円か5万円を受け取ることができます。
ちなみに死亡の場合は290万円受け取ることができます。
具体的にそれぞれどういうときに、どんな金額を仮渡し金として受け取れるかは以下の通りです。

<h4>40万円が受け取れるのはどういう場合?</h4>
・脊柱の骨折で脊髄を損傷したと認められる症状を有するもの
・上腕または前腕の骨折で合併症を有するもの
・大腿または下腿の骨折
・内臓の破裂で腹膜炎を併発したもの
・2週間以上の入院外必要で医師の治療期間が30日以上のもの

<h4>20万円が受け取れるのはどういう場合?</h4>
・脊柱の骨折
・上腕または前腕の骨折
・内臓の破裂
・2週間以上の入院外必要なもの
・医師の治療期間が30日以上のもの

<h4>5万円が受け取れるのはどういう場合?</h4>
・医師の治療期間が11日以上のもの

病院によっては被害者の仮渡金受け取りに難色を示す場合があります。
被害者が仮渡金を受け取ることで、病院が自賠責保険から治療費を受け取れなくなる場合があるからです。
(詳しくは<a href=”<% pageDepth %>category2/entry5.html”>自賠責保険の仮渡金が発生する場合|病院との会話例</a>参照)
とはいえ、一番優先されるべきは被害者の生活なので、必要な場合は是非とも利用するべきでしょう。

 

自賠責保険の仮渡金が発生する場合|病院との会話例

患者「この後の治療費を窓口で毎回負担するのはきついです。支払が積み重なって高額になってしまうと支払が滞ってしまいそうです。その場合、分割払いは出来るのでしょうか」
病院「病院としてはその場で治療費をお支払いしていただきたいです。」

患者「たとえばボーナスが出るまで・・・せめてお給料が出るまで待っていただけませんか。」
病院「それでは保険会社に連絡を取ってみてください。治療費の一部を先に受け取る事が出来る仮渡金という制度があります。」

患者「それはローンのような制度ですか?」
病院「仮渡金請求は、当座に費用が必要な場合、まとまったお金が受け取れるものです。しかし注意点として、請求は一回のみです。何度も請求することは出来ません。手続きとしては医師が仮渡金用の診断書に記載をし、それを自賠責支払請求書とともに提出すれば大丈夫です。保険会社から約一週間で被害の程度に応じた仮渡金が支払われます」

患者「被害の程度、ですか。私の場合はどれくらい貰えるのでしょう」
病院「そうですね。治療に11日以上なら5万円、入院が14日以上だったり通院でも30日以上かかる場合は20万円となっています。その他にも40万円の基準もありますが、多くの保険会社は5万円か20万円に限定しているようです。ただし、最終的に治療費よりも仮渡金が高かった場合は差額を返金しないといけません。またあなたの過失が高く、加害者に過失がないと判断された場合、全額を返金しないといけません。」

患者「今回の事故は完全に貰い事故で相手が100%悪いので返金の心配はなさそうです。それにしても20万円は助かりますね」
病院「しかし病院によってはこの仮渡金の手続きを嫌がる場合もあります」

患者「それはなぜですか?」
病院「保険会社から仮渡金を受け取った後、病院へ治療費の支払いをせずに行方をくらます悪質なケースが増えてきているのです。その場合、病院が保険会社に治療費全額を請求したとしても、保険会社が支払ってくれないのです。例えば治療費が50万円かかって保険会社に請求したとしても、仮渡金20万円が支給されている場合、差額の30万円しか支払ってもらえません。制度の悪用が後を絶たないので、制度の利用について病院が消極的になってしまうのです。」

患者「なるほど。病院にも都合があるんですね。まずは医師に治療期間を確認してみることとします。」

 

自賠責保険の内払金の請求とは

自賠責保険には「内払金」という制度があります。

これは傷害事故で治療が長引きそうなときに支払われます。
全体の損害額がまだはっきりしてなくても、確定した損害が10万円を超えた場合に請求できます。
ちなみに加害者も被害者どちらも請求できます。

被害者が請求する場合、既に加害者から治療費を受け取っていたり、自賠責保険の仮渡金制度を利用していたりした場合、受け取った金額は差し引かれて支給されます。
また、自賠責保険の上限額120万円を超えなければ、何度でも請求できるのです。

実際に病院との会話例を見て、ケーススタディしてみましょう。

患者「先生から次の受診は半年後と言われました。次回の受診も交通事故扱いになるのでしょうか」
病院「医師から治癒や症状固定といった話はありましたか?」

患者「そういう話はなかったです」
病院「それなら半年後の受診も交通事故の扱いになります」

患者「こういう場合、病院から保険会社へは治療費の請求はどうなるんですか?」
病院「本日までの治療費を保険会社に請求する内払金請求、もしくはすべて治療が完了した後に請求する本請求、どちらかを取ることになります」

患者「なんですか、その内払金請求って?」
病院「内払金は治療が長引く場合に使える自賠責保険の制度です。治療費が確定しなくても10万円を超えた場合請求することができます。ただし、死亡の場合や後遺障害の場合は使うことができない制度です。また患者さんが仮渡金を受け取った場合も差し引かれてしまいます。仮渡金の請求はなさいましたか?」

患者「いえ、してないです。」
病院「それでは治療費は内払金でまかなうことが可能です。請求手順は、本日までの診断書を医師が作成し、診療報酬明細書を作成します。その際には文書料8000円がかかりますが、これも保険会社に請求します。半年後以降の受診も請求が出来ます。」

 

自賠責保険の「治療費」の範囲はどこまで?

<h4>治療費として認められないものもある</h4>
病院などに支払っても自賠責保険で治療費として認められない場合もあります。
通常のケガや病気であれば、健康保険証を使い、3割負担で受診すると思います。

ただし、交通事故では自由診療での受診となる場合があるのです。
病院によっては、「交通事故は健康保険は使えません」と断言して、強引に自由診療に持っていく場合もあるようです。

この自由診療でははっきりとした基準がありませんので、過剰診療や濃厚診療が行われる場合が多々あるのです。
グレーゾーンなのでどこまでが治療費として認められるかはケースバイケース。
こういった心配をなくすためにも、健康保険を使いたいと明言しておくことも大切です。

<h4>医師の指示が無い場合の治療費</h4>
はり、きゅう、マッサージ、治療用品、温泉治療などは医師の指示があった場合のみ認められます。
勝手に受けると治療費として認定されないので注意が必要です。

<h4>症状固定後の治療費</h4>
医師がこれ以上治療しても、症状が良くならないと判断した日を症状固定日といいます。
原則、症状固定日以降の治療は治療費として認められません。
特別な事情があった場合のみ、治療費として認められます。

<h4>付添看護費</h4>
被害者が入院や通院に際して付添看護が必要な場合は認められます。
付添看護は専門機関から派遣されるプロの付添人か、近親者の付添人になります。
前者の場合は実費全額が認められますが、後者の場合は入院と通院で以下のように分かれます。

①入院の場合
自賠責保険基準では1日4100円となっています。
ただし、それを超える実費がかかっていることを証明でき、妥当な金額であればそれ以上も認められます。

②通院の場合
・被害者が歩行困難な場合、1日2050円となっています。
ただし、それを超える実費がかかっていることを証明でき、妥当な金額であればそれ以上も認められます。
・被害者が幼児、老人、身体障害者など、通常以上に付添が必要な場合は1日3000円~4000円が認められます。

<h4>入院雑費</h4>
被害者が入院した場合、日用品を購入したり、テレビを賃借したり、家族への電話代がかかったり、雑誌や新聞を読んだり、色々な雑費がかかります。
これらは自賠責保険では定額を入院雑費として請求できることとなっています。
入院雑費は原則1日1100円です。

<h4>通院交通費</h4>
被害者が病院に通院するための費用も認められます。
原則は公共交通機関である電車、バス代が支給されます。
タクシーは特別な事情が無い限り認められません。

タクシー代が認められるのは、被害者の傷害程度や年齢や交通の便などを考えてやむなしと判断されば部分のみです。
被害者の多くは「自分は被害者だからタクシー代くらい出るだろう」と安易にタクシーを使い、結果請求に応じてもらえず、自己負担になるケースがとても多いです。

また認めれる場合も領収書を保管しておくことが大切です。
保険会社との交渉の際に必要となります。
通院日や運賃をノートに記録しておくことをおすすめします。

他にも自家用車を使った場合ガソリン代が支給されたりします。
とにかくかかった費用分は領収書を保管しておきましょう。

 

典型的な交通事故の場合|病院窓口との会話例

普通の交通事故で診察を受けた場合、病院の窓口では以下のようなやりとりが基本となります。

患者「腰が痛むので整形外科を受診したいのですが。」
病院「はい。本日のお怪我の原因は交通事故でしょうか?」

患者「はい。3日前に交通事故にあいました。当時は痛みがなかったんですが、数日経ってから痛みが出てきまして・・・」
病院「そうですか。事故の際、警察には届け出ましたか?」

患者「警察にはすぐ来てもらいました。病院にかかった場合は必ず診断書を警察に持ってくるように言われています。」
病院「わかりました。診断書は受診後にお渡しします。交通事故の場合、治療の会計が通常と異なります。ご相談させていただきたいのですが、交通事故の場合、①患者様が10割全額ご自身で払うか、②保険会社が一括して払うか、③健康保険を使って3割負担で支払うかの3パターンがあります。いかがいたしますか?」

患者「え~と・・・初めてのことなので、どうすればいいのか分かりません・・・」
病院「保険会社が分かっている場合、連絡を取って保険会社が一括して支払うのが一般的です。健康保険を使われる場合、保険者に連絡を取って第三者行為届けを提出する必要があります。」

患者「保険会社は損保ジャパンです。電話番号は分かりますが、担当者まではちょっと・・・」
病院「差し支えなければ私から保険会社に連絡をしてもよろしいですか?」

患者「そうしていただけると助かります。」
病院「では先に診察を受けてきてください。その間に保険会社に連絡を取ってみます」

~受診中に病院が保険会社に連絡を取る~

病院「保険会社に連絡を取りましたところ、保険会社が一括で治療費を支払うとのことでした。正式な契約は後日書面でかわさせていただきますので、本日のお会計は結構です。」
患者「ありがとうございます。支払いはしなくていいのですね。」

病院「はい。当院から治療費の請求を直接保険会社に行います。その際は保険会社から同意書の記入を求められると思います。診断書と明細書は直接保険会社にお送りします。」

 

自賠責しかない交通事故の場合|病院窓口との会話例

交通事故に遭ってしまい、しかも相手が自賠責保険しか入ってないかもしれない場合、病院窓口でのやり取りはこんな感じになります。
病院「この度は大変でしたね。私医事課入院係の田中と申します。手術が済んだばかりで申し訳ありませんが、お会計のことで相談させてください。」
患者「はい。私も治療費のことが心配で心配で。」

病院「まず今回のお怪我は交通事故だとうかがってますが、間違いありませんか。」
患者「はい、間違いありません。」

病院「事故の後、救急車で病院に搬送されたと思います。交通事故の相手の連絡先はご存じですか。」
患者「はい。事故直後で痛みがひどかったのですが、搬送される前に連絡先だけ貰っています。」

病院「その後相手には連絡をとりましたか?また診断書を警察に届けて出てますか?」
患者「はい。連絡を取りました。相手は自分が保険に入っているかどうか分からないといってまして、調べてまた連絡をくれることになっています。診断書は家内が警察に届けてくれました。」

病院「保険が分からない・・・ですか。相手が任意保険に加入していれば問題はありませんが、もし自賠責保険にしか入っていないということですと、会計で問題が生じる可能性があります。自賠責保険を使うという連絡が相手から入った場合、病院にも必ず連絡してくださいますようお願いします。」
患者「自賠責だけだと何か問題があるのですか・・・?」

病院「はい。自賠責保険には支給額に上限が決まっています。お客様の場合傷害ですので、治療費や慰謝料など全て含めましても120万円が上限額です。手術をなさいますと治療費だけで120万円を超えてしまうこともあります。超えた分の費用は相手の方が自分で負担をすることになります。場合によってはお客様にご負担いただく場合もあります。」
患者「は?私は貰い事故で過失はゼロなんですが?」

病院「はい。もちろん原則は相手の方にお支払いいただきますが、お相手が支払いの応じてくれない場合や、過失の問題でもめたりしますと病院としては一端お客様に請求せざるを得ないのです。なのでそうならないように、相手の方とは十分にお話をなさってください」
患者「・・・そうですか。分かりました。まずは相手とよく話してみます。」

病院「はい。ご不明点があれば医事課までご連絡ください。お大事に。」

 

第三者行為届が必要な交通事故|病院窓口との会話例

ひき逃げで相手が不明の場合は自賠責保険も任意保険も使えません。
その場合、病院窓口での会話は以下のようなものになります。

患者「交通事故で怪我をしまして・・・診察をお願いします。」
病院「それでは先に診察を受けてください。後ほど担当の者から会計について相談させていただきます。」

~受診後~

患者「診察が終わりました。会計について相談があるとうかがっています。」
病院「はい。そうなんです。まず事故の際警察には届け出ていますか?」

患者「はい。警察に来てもらいました。病院にかかったら診断書を持ってくるように言われています。」
病院「事故の相手とは病院の治療費についてどうするか話し合っていますか?」

患者「それが、相手が逃げてしまって。今警察が捜査中なんです。」
病院「相手が不明ということは、自賠責保険も任意保険も使えないということになりますね。本日の治療費は診察料とレントゲンと診断書料を合わせて25,000円になります。」

患者「!?25,000円!?た、高くありませんか?」
病院「はい。この金額は通常の3割負担ではなく、10割負担の金額です。さらに当院では交通事故の場合、自由診療扱いで医療単価を診療報酬の200%と決めております。」

患者「そんな・・・。健康保険は使えないのですか?」
病院「原則は使えないのですが、お手続きをしていただければ健康保険対応も可能となっています。」

患者「是非そうしてください。とても払えません・・・。」
病院「ではご加入中の健康保険にお問い合わせいただき、今回の事故で健康保険を使ってよいかどうかご確認ください。」

患者「健康保険に連絡・・・ですか。どこに連絡すればいいのでしょう。」
病院「保険証に連絡先が記載されていると思いますよ。」

~患者が保険者に連絡~

患者「第三者行為届を提出すれば健康保険を使えるとのことでした。」
病院「そうですか、ちなみに健康保険の担当者のお名前はなんとおっしゃっていましたか?」

患者「田中さんです」
病院「分かりました。当院からも確認させていただくので少々お待ち下さい。」

~病院確認~

病院「確認が取れましたので、本日は保険診療となります。お会計は4,000円です。」
患者「良かった・・・。」