最近増えている水害

史上最大級の被害をもたらした台風といえば伊勢湾台風が有名です。

高潮災害で大都市が水没し、約5,000人の方が亡くなりました。

 

今、近い将来にまた伊勢湾台風のような大水害が起こる危険があるといわれています。

言われてみれば確かに、ここ最近異常気象が増えてきていると思いませんか?

ゲリラ豪雨、巨大化台風、台風経路の変化・・・。

大雨による土砂災害のニュースも最近目にすることが多くなった気がします。

最近の異常気象は地球温暖化が影響しているといわれています。

こういった水害から我々を守ってくれるのが第一に堤防です。

事実、堤防については国土交通省、地方自治体が一生懸命整備を進めています。

しかし連続構造物である堤防が100%安全安心といえるでしょうか。

連続しているわけですから堤防が1か所でも切れたら、そこから水が入ってきておしまいです。

過去最大級の水害を想定して堤防を整備したとしても、相手は今まで経験したことのないような異常気象です。そんな中、これから先堤防が一か所も決壊しないということがありえるでしょうか。

 

台風が温暖化で大きくなっていると危ぶまれている中、2011年に東日本大震災という大災害が起こってしまいました。これにより水害の対策研究は停滞しました。まずは地震対策、津波対策ということで、しばらく議論がそちらばかりになったからです。東日本大震災から6年がたったころからようやく大規模水害問題が再度本格的に議論されるようになりました。

現在では内閣府の中央防災会議の中でも、大規模水害の問題というのがしっかり議論されるようになっています。

防災白書を読むと分かりますが、ここ最近温暖化の影響で非常に気象災害が多くなっています。

温暖化の影響で深刻なのが海水温の上昇です。

この海水温の上昇が気象災害を激甚化する原因といわれています。

その理由は3つあります。

 

温暖化で気象災害が大きくなる3つの理由

1つめの理由は、海水温が高いと当然立ち上がる水蒸気量が多いので、単純に1回の雨の量が物凄いことになります。

平成24年の紀伊半島では、数日間に2,400ミリ雨が降りました。2,400ミリというのは、簡単に言えば2m40cmです。北海道の雪が2m40cm積もっているのは、想像できるかもしれませんが、これは雨です。雪ならゆっくりと溶けていきますが、雨は一気に流れていきます。

普通では考えられない雨が降るようになっています。

 

2つ目の理由は、高い海水温がもたらす台風の頻発化と巨大化です。

地震や津波は歴史的に見ても、低い確率で稀に起こる大災害です。

ところが台風による大災害は、低確率ですがある程度のリスクを毎年毎年負っています。

1年単位で見れば90%の確率で大丈夫でも、2年連続なら81%に下がりますし、10年単位で見れば、ほとんど確率的に確実に起こるといってもいいぐらいです。

台風が大きくなると、全体的にサイズが大きくなるのはもちろん怖いですが、それよりも怖いのが極端化です。

降らない場所では降らないし、降る場所では降る。

そんな中でたまたま大きな台風がぶち当たると、未曽有の災害が起こってしまいます。

 

ちなみに2016年は台風1号が7月までずれ込みました。これは観測史上2番目の遅さです。

そしてこの台風が900hPaでした。

日本で記録に残る過去最大の台風は室戸台風で911.6hPaです。

もちろんこれは上陸時のhPaですが、これをあっさりと超えています。

こういった台風が毎年発生するようになっています。

今年は大丈夫でも、来年か再来年かという話で、遠くない未来に過去記録を更新する大きさの台風が上陸してくるのはほぼ間違いありません。

 

今までの台風は大きくなればなるほど、自分で小さくなろうという力が働いていました。

それは台風が大きくなればなるほど、台風に冷たい海水が混ざるからです。

しかし海水温が高いと台風に冷たい海水が混ざらず、台風はいつまでも大きいままになってしまいます。そうすると北上すればするほど台風が小さくなるというメカニズムが働かないまま、大きい台風がそのまま上陸してしまう。

2016年は台風1号のような猛烈な台風がそのままの威力で上陸しかねない。こういう非常に怖い状況です。

 

そして最後3つ目の理由が、台風の発生緯度が高くなることです。

今までの台風は大抵赤道のあたりで発生していました。平均をとると、北緯16度あたりで発生しています。このあたりで発生した台風はおなじみのコース、台湾に向かい、緯度が高くなってくると偏西風にあおられて、東に流れ、九州、四国、紀伊半島あたりを通っていきます。この台風がよく当たる地域は「台風銀座」と呼ばれています。日本海に入って東北地方を日本海側から抜けていくコースです。

ところが発生緯度が高いとどうなるか。今度は台風が紀伊半島から関東のあたりを直撃し、東北を縦断して、北海道に至るコースになります。まさに2016年がそうでした。北海道に台風が3つも上陸したのは記憶に新しいと思いますが、いままでこんなことはありませんでした。

このように今後は台風が関東を直撃するパターンが増えてくることが予想されます。

 

気象庁の発表では、台風は巨大化傾向にあり、2012年時点の発表ですが、今後850hPaを下回る可能性がある、なんてさらりと言っています。もはや誰も経験したことのない台風が関東に上陸する危険があるのです。

 

洪水より高潮の方が危険

海の高潮と川の洪水、違いが分かりにくいですが、実は大違いです。川の洪水は1か所堤防が壊れると、逆側は大丈夫といわれています。左岸の堤防が切れれば、普通右岸は大丈夫です。だから昔から川を挟んで右岸と左岸では仲が悪かった。どっちを決壊させるかの勝負みたいなところがありましたからね。

さて堤防が1か所壊れると、そこから水が出始めて拡散していきます。薄く水が入ってきて徐々に水位が上がっていきます。拡散方式なので徐々に水位が上がります。

しかし高潮の場合、相手は海です。無限の水ですので容赦なく海水が陸に入ってきます。川の堤防は1か所切れればおしまいですが、海の場合はどれだけ堤防が壊れても許してくれません。そのまますべてが海になるような状況が高潮による堤防決壊です。高潮災害は河川氾濫より恐ろしい。

海抜ゼロメートル地帯だと高潮被害はさらに深刻で、台風が去って高潮が引いても水が引きません。そうすると膨大な水をポンプで人力排水しなければなりません。排水して乾かした後に堤防を築いてようやく復旧完了となります。

取り残された人々の救出作業も大変です。水に浸かったままの街からヘリコプターや船で救出するわけですが、常総の水害とのときはヘリコプターで救出できたのは2,000人くらいといわれています。自衛隊が全力で救出してくれるかと思いますが、ヘリコプターだけでは人数的に不十分ですし、船で救出するにも水には瓦礫が浮いているでしょうし、困難な救出作業となるでしょう。大都市で数万人という人々を救出するにはどれだけの日数がかかるのか想像もつきません。

 

水害時の避難シミュレーションではどうなったか

専門家が実際に東京都で避難のシミュレーションをさまざまなシナリオでやっていますが、結論からいうと避難は非難に困難と言わざるをえないようです。まず都内の場合、車での避難が多く、大渋滞になり道路がフリーズして避難できなくなってしまいます。道路全部が車で埋まってしまう状態です。全員が外に出ることができないとなると、現実的に残らないといけない人も出てきます。被害を最小限にするためには外への避難と中での避難、両面から考えなくてはいけません。できる限り外に避難してもらい、残る人はできるだけ少なくするのが理想です。しかし水害直前では道路がフリーズしている。そこで肝になるのが、いかに早いタイミングで避難するかです。

 

退治なのは早いタイミングでの自主避難

ではいつから避難するのが理想でしょうか。

台風上陸3日前なら余裕をもって自主避難が出来ます。

「避難は自治体からの避難勧告が出てからでいいのでは?」と思うかもしれませんが、そんなに早く避難勧告が出ることは期待できません。たとえば大都市東京で考えれば、台風の風向きから考えると、台風が東京湾に対して横浜側を通ると高潮が起こります。ところが台風が千葉側を通ると高潮は起こりません。台風が左右どっちを通るか、きわどいコースで高潮が起こるかどうか決まります。この微妙さを3日前に完璧に当てられるかというと、どんなに精度が高くても無理でしょう。

自治体が避難勧告を出すのは、高潮が確たる状態になった後です。そうすると3日前には出ませんし、避難勧告がでたときにはもう遅い。「避難勧告を早く出さない自治体が悪い」と思うかもしれません。しかし自治体を責められるでしょうか。外れる可能性も高いけれど3日前に避難勧告をしたとします。東京は人口と会社が密集した地域ですから、避難勧告はその経済活動をすべて止めることになります。そのリスクから、大事を取って3日前に避難勧告することは自治体にとって大変勇気がいることです。命を守るためにはそれでもやらないといけないのかもしれません。そうすると、避難勧告が空振りしても容認する社会である必要があります。そういった社会の雰囲気を醸成していくのは、一朝一夕ではいきません。

そこですぐできる現実的な手段が「自主避難」です。早い段階から危機感を持って災害に巻き込まれないよう、自主的に避難する。家族みんなでおじいちゃんの家に避難する、子供を実家に預ける、といった具体的な行動がとれるような危機感を持つことが大切です。こういった気運を一人一人に高めていくには、一個人の力だけではできません。といって行政だけに任せておいてもいけません。個人、地域、行政が一体となって取り組んでいく必要があります。

 

水害に対して危機感を持とう

平成29年に行われた「東京都江東5区における水害避難に関する住民調査」の結果を見ると、「大規模台風が来たときいつ自宅から避難しますか?」には2日前で80%、直前になっても51%の人が避難せずに自宅にいると答えています。「大規模水害時に自宅に留まった場合、ライフラインが途絶した環境で、数週間から数か月の滞在を強いられる可能性があること」「大規模水害からの安全を確保するために域外への避難が求められること」「域外への避難には、台風の影響や道路の大混雑を避けるために1日前などの早い段階からの行動が求められること」これらのことを知っていますかという質問に対しては約70%の人が「知らなかった」と答えています。

このように今私たちの社会の中に、大規模水害に対する「避難しないといけない意識」「避難自体の知識」が十分に浸透していないのが現状です。大規模水害に対して我々ひとりひとりが危機感を持って、避難の方法を真剣に考える。そういったことが本当に必要になってきていると思います。

あなたの大切な人を守るために、まずはあなたの意識を変えることから始めてみませんか。