脳からストレスを消す技術~セロトニンと涙が人生を変える~(著者:有田秀穂)

読書の著者がおすすめしている一冊です。

 

・人間が脳ストレスをコントロールするために備わっている機能は二つある。

1 ストレスを受け流すセロトニン神経。脳幹はうつ病やパニック障害、精神的な病気と深いかかわりをもつ「セロトニン」という神経伝達物質を出すセロトニン神経がある場所。セロトニン神経が弱くなると精神病を発症する。セロトニンは平常心をもたらす。クールな覚醒をもたらす。興奮も暴走もせず、クリアな状態で脳の切り替えがスムーズに働く。お釈迦様が座禅によって悟りに至ったのも、静かな覚醒のおかげ。物質的な痛みにも強くなる。セロトニン神経が低下すると、生物は残虐な行動をとることもラットの実験で分かっている。セロトニン神経を破壊したラットは他のラットをかみ殺して食べてしまうが、セロトニンを補給すると残虐性は嘘のように消える。セロトニンは指揮者のような存在で自身は楽器を演奏しない。セロトニン神経はドーパミン神経、ノルアドレナリン神経の過度な興奮を抑え、脳全体のバランスを整え、平常心をもたらす働きをしている。セロトニンがうまく働けば、ドーパミン、ノルアドレナリンが多少出すぎても大丈夫。セロトニンが出すぎると「魔境」といわれる幻覚を見ることもあるが、普通の人はまずありえない。セロトニンの効能をまとめると①クールな覚醒②平常心の維持③交感神経の適度な興奮④痛みの軽減⑤良い姿勢の維持、の5つ。

2 溜まったストレスを一気に解消する「涙」。ストレスをリラックスに変える。

 

・ストレスはいずれ消えてしまう。ならば無理に戦うのではなく、じっと寄り添って消えるのを待とう。これがお釈迦様の到達した境地。消極的かもしれないが、お釈迦様が6年考えて到達した結論。ストレスには勝てないと気づき、受け流せれば、ストレスに押しつぶされることはなくなる。ストレスに立ち向かうことはおすすめしない。負けるだけ。

 

・前頭前野の血流が少なく働きが良くない人は、人の心が読めず、コミュニケーションがうまく取れない。前頭前野の発達していない一歳の子供は相手が泣いていようが怒っていようがお構いなしで自分の感情を優先させる。大人が感情をコントロールできないのは前頭前野が未発達なのではなく、アルコール摂取など何等かの要因によって前頭前野の働きが弱っていることが原因。脳にとっても乾燥は大敵。筋肉と同じように、働かせないと衰えていく。脳の血流を良くするのは「運動」。激しい運動は必要なく、ウォーキングなど、一定のリズムを刻む「リズム運動」が血流を良くする。

 

・ドーパミン神経。脳が興奮すると心地よさと同時に「意欲」をもたらす。テストで良い点を取ると喜びと気持ちよさを感じるが、次はもっといい点数を取ろうという意欲が生まれる。つまり報酬を目指して努力して報酬が得られると、さらなる意欲がわいてきてさらに努力ができるという構造を人間は持っている。半面報酬が得られないと、不快が生まれ、ストレスが生じる。

 

・ノルアドレナリン神経。ドーパミンと同じく興奮作用があるが、生命の危機や不快な状態と戦う脳内物質が「ノルアドレナリン」で、ドーパミンの快楽とは逆に「怒り」「危険に対する興奮」をもたらす。適量であれば、ワーキングメモリーの働きが良くなり、仕事や運転中は不可欠。自律神経に働きかけ、血圧と心拍数が上昇、危機的な状況に対処する準備を整える。脳全体を「ホットな覚醒」(セロトニンはクールな覚醒)に導き、戦いに勝ち目はあるのか、逃げた方がいいのかという判断から具体的な行動へ誘導する。人間が今日まで絶滅しなかったのはノルアドレナリン神経のおかげ。しかしうつ病、パニック障害、対人恐怖症といった様々な精神病を引き起こすのもノルアドレナリン。

 

・ストレスが長く続くとうつ病になってしまうのは、セロトニン神経が弱くなり、ノルアドレナリン神経が働きすぎが深く関わっている。

 

・セロトニントレーニングを三か月続けると、セロトニン神経の構造が変化してきて、六か月たつとかなり良くなる。

 

・北欧など冬に極端に日照時間が短くなる地域では「冬季うつ病」と呼ばれる病気がある。南イタリアの太陽がさんさんと輝くところへ連れていく転地療法が効果的。うつ病の原因が日照不足だから。太陽の光でなくても2500~3500ルクスという強い光であればセロトニンを興奮させる。100年前まで人類は太陽とともに起き、沈むと眠るという生活を続けていたため体のシステムがそうなっている。太陽の光を取り入れることを心掛ける。朝起きたらカーテンを開ける、通勤では日向を歩く。セロトニンは朝作られるので、朝の太陽が効果的。30分浴びるのが一番。浴びすぎてもセロトニン神経の自己制御が働いてしまう。日中セロトニンが不足すると、夜はメラトニンが作れずに不眠になる。不眠には薬ではなく「朝早くからウォーキングしてください」と指導している。メラトニンにはアンチエイジング効果もある。活性酸素を処理してくれるため、アメリカではサプリメントとしてメラトニンが販売されている。(日本やヨーロッパでは医薬品扱い)

 

・セロトニン神経を活性化させるにはもう一つ「リズム運動」を行う。ウォーキング、ジョギング、マラソン、サイクリング、水泳、エアロビクス、スクワット、ダンス、座禅、腹式呼吸、ヨガ、太極拳、お経、念仏、ガムをかむ、太鼓をたたくなど。一定のリズムを刻めばOKで、激しさは不要。最低でも5分行えばセロトニンの放出量が増える。普段の呼吸をトレーニングに変えるなら、腹筋の収縮を意識して行う。吐いてはいて、もうこれ以上は吐けないというところまで息を吐くと、吸気は意識しなくても自然に行われる。これが腹式呼吸。まず呼気を意識する。ウォーキングやサイクリング、日常のあらゆる場面で使えるので、呼吸法の基本として身に着けてほしい。

座禅の腹式呼吸は12秒ほど息を吐き、8秒で吸うのが基本。最初は無理しない秒数でOK。座禅は目を閉じない「半眼」が大事。目を閉じるとアルファ波が出るが8~10ヘルツというゆっくりしたもの。半眼で行うと5分後から10~13ヘルツといった速いものが出て、リラックスと同時に脳が爽快ですっきりした感覚が得られる。この速いアルファ波がクールな覚醒をもたらす。

ウォーキングやジョギングは腹式呼吸を併用すると効果が増す。ウォーキングは「はっはっは」と腹筋を使いながら3回吐き、次いで「すー」っと一回リズミカルに吸う。基本は鼻で行うが、苦しいときは口から吐いてもOK。ただ吸気は鼻で行う。ピッチをあげるジョギングなら、2回吸って2回吐く。

 

・TOKIO国分太一は朝6時半に起きてジョギング、森光子は毎日スクワット、指揮者カラヤンは指揮の前にヨガをしている。世界で活躍している人はリズム運動、座禅、瞑想を取り入れている。イチローも守備につくまでのランニング、守備位置についてからも常にリズミカルに動いており、セロトニンを活性化させているのが分かる。

 

・悲しいときや感動したときに流す「情動の涙」は人間しか流せず、ストレスに対抗する能力を持っている。幼い子供がこの涙を流せないのは、まだ経験が少なく「共感」そのものができないため。この涙を流すと前頭前野の血流量が増える。子供もさまざまな涙を経験することで、前頭前野が鍛えられ、共感の涙を流せる大人の脳へと成長していく。もしうつ病の人が泣きたいときに泣けるようになったら、それはもう病気の回復が始まっている証拠。互いに共感しあうというのは、とても大きな喜びをもたらすので、誰かと一緒に感動する映画をみて涙を流すというのは、強力なストレス解消法。

情動の涙が流れるとストレスが解消されるのは、脳内が交感神経の緊張状態から、副交感神経優位にスイッチングされるため。

 

・笑いにも同じようにストレス解消力があるが、涙を流した時は「すっきり」、笑うと「元気がでる」という違いがある。ただ涙による効果よりははるかに小さい効果。とはいえ泣くのはいつでもできるわけではないので、「普段は笑いで元気を出し、いざというときは号泣してたまったストレスを洗い流してしまう」というのがベスト。

 

・人は「私利」のためには頑張れない。なぜなら人が頑張るためには、最終的に満たされることが必要であり、自分では自分を満たすことはできないから。人を満たすことができるのは人だけ。他人に自分のしたことが認められたり、喜ばれたり、自分が必要とされていると感じられて初めて人は満たされます。なので自分のために稼ぐのではなく、誰でもいいので、身近なだれかの幸せのためにという視点を持つことが必要。

昔もお金、生活のために働いている人はたくさんいたが、そこには誰かのためという「人」が存在していた。働くのは、自分と自分の大切な人々楽しく生活するために必要なお金を得るためだった。今多くの人が夢を持てなくなっているのは、「人との関係」を手放してしまったから。人々が失ったのは夢や希望ではなく、本当は「人との関係」だった。

人との触れ合いが、トラウマ、うつ、引きこもりを癒す。一つだけ覚えておいてほしいのは、「人は人間関係で傷つくこともありますが、そうした心の傷を癒してくれるのもまた人間関係だ」ということ。人を傷つけることも、傷つくこともあるが、人間関係のそうしたネガティブな面ばかり注目するのではなく、良い面に意識を向け、人との触れ合いの中で共感脳を活性化させていくことが大切。

 

・子供の共感脳を充分に発達させるためには、3歳までの子供は母親から引き離していけない。できるだけスキンシップを重ねる。おんぶ、抱っこ、優しく触れてあげる。母と子が接しているだけで、自然と共感脳が育っていく。母子お互いの脳に良い効果がある。育児は大変な仕事だが、その大変さに耐えられるよう、母親は子供と触れ合うことで癒されるようになっている。これまで日本は女性が社会に進出できるようさまざまな努力をして、男女平等社会を築いてきたが、結果、少子化、子供の非行、女性の負担増加など、それまでになかった問題も生まれてきている。

 

・介護は人と人が直接かかわらなければできない仕事。介護の仕事は最近人気が上がってきているが、それは「自分の仕事が人のためになる」という実感を感じやすく、働く意欲につながっているから。介護を志す人は無意識のうちに人との直接的なかかわりを通じて、「自分が認められること」を求めている。シリコンバレーでも会議にパソコンを持ち込むことを禁止する会社が増えてきている。会議の効率が格段に上がったというデータもある。IT企業のメッカともいうべきシリコンバレーでも、人との関わりを重んじる動きがあるのがおもしろい。人が意欲をキープするためには、人との直接的コミュニケーションは欠くことができない。

 

・人は一人では生きていけない社会的生き物。そんな人間にとって人のために何かすることが、結局は自分を癒すことにつながるというのは、すばらしい福音。