正確な本の名前は「心を整える。勝利をたぐり寄せるための56の習慣」です。

若くしてサッカー日本代表で長年キャプテンを務めあげた長谷部選手が書いた本で興味があって読んでみました。

※この本の印税は全額ユニセフを通して寄付しているそうです。

「藤枝東高校でサッカーがしたい!」と中学三年生から猛勉強して入学した長谷部選手。偏差値を調べるとなんと66!・・・文武両道です。

 

一日の最後に必ず30分心を静める時間を作っている。部屋で電気をつけたままベッドに横になる。音楽もテレビも消す。目を開けたまま天井を見つめるようにして全身の力を抜いていく。ひたすらぼーっとしてもいいし、思考を巡らせてもいい。ざわついた心を鎮静化し、メンテナンスしてあげる。京セラの創業者・稲森和夫さんも「一日一回、深呼吸をして、必ず心を静める時間を作りなさい」と言っている。

 

2007年Jリーグ最終節、レッズは最後の最後で優勝を逃してしまった。原因はコンディションの調整不足。そこで自分はイメージトレーニングをしすぎると冷静さを失ってしまうと気づいた。この日以降、試合当日までできるだけ同じパターンで過ごし、試合直前に心のスイッチを入れる。具体的にはピッチのタッチラインを跨いだぐらいからスイッチを入れる。これがうまくはまり、ワールドカップという大舞台でも平常心で臨むことができた。

 

ドイツには「整理整頓は人生の半分である」ということわざがある。日ごろから整理整頓を心がけていれば、生活や仕事に規律や秩序が生まれる。朝起きたら簡単にベッドメイキングする。本棚は整理。テーブルの上はきれいに。80点くらいで良い。きれいにすれば心が落ち着く。心がもやもやしたら体を動かして整理整頓がおすすめ。

 

僕はプロに入った当初重圧やプレッシャーに弱く、よく胃薬のお世話になっていた。知らない人がおおいところに飛び込むと、気を遣う。廊下にでるとき誰かに会うかなと考えると、なかなかドアを開けることができないくらい。ドイツでプレーしているときは片道90分かけてメンタルトレーナーのお世話になったこともある。ところが1年、2年で胃の痛みを克服した。鈍感になれたのが大きかった。周囲の人は自分が意識しているよりはるかに、僕のことを見ていないことに気づいたからだ。自意識を取り払うと楽になれる。

 

愚痴は言わない。何も生み出さないし、聞いているまわりも迷惑。自分も問題点と向き合うことから逃げている。逆に愚痴を言わなければ、おのずと問題点と向き合える。

 

僕は悔しいことがあったときは、なるべく早く消化するようにしている。レッズ時代、試合に負けたり、悩みごとがあるときは一人で温泉に行く。寂しい奴と思われるが、孤独な時間だからこそできることがある。自分にとって本当に大切なものは何なのか、自分と向き合う時間をつくるのに一人温泉はうってつけなのだ。イギリスの文豪トーマス・カーライルも「ハチは暗闇でなければ蜜を作らなぬ。脳は沈黙でなければ、思想を生ぜぬ」と言っている。宿について部屋に案内してもらったら女将さんとの会話を楽しむ。「この近くで観光するならどこがいいですか?」「明日ランチに行けるようなおすすめのレストランはありますか?」など現地情報を仕入れる。旅は計画せずに行くのが僕のスタイル。旅先で仕入れた情報で何をするか決める。温泉に入る。特に好きなのは海が見える露天風呂。水平線を見ながら湯船につかっていると、自分の悩みがちっぽけに感じられて一からがんばろうと思える。そのあとは宿の周りをぶらぶら散策したり、部屋でゆっくり読書したり。日常から離れた世界で贅沢に時間を使っていく。

 

酒の席では仕事のことは完全に忘れたい。心のウイッチをオフにしてリラックスしたいのだ。ただサッカー選手にとって酒は体力の回復を遅らせるし、けがの原因になるので、飲みに行くのは休みの期間だけ。深酒も厳禁。酒が入ると本音が引き出せるというけど、そういう考えは好きじゃない。お酒がないと本音が言えない関係が嫌。

 

僕は好きになるとそれしか見えなくなる。レストランで一度気に入ったメニューがあるともうそれ以外は頼まない。家で炊くお香いつも同じ。趣向に関しては冒険しない性格。流行を追うのも刺激的だけど、僕は一番いいと思ったものをいちずに使い続けると心が本来いるべき場所にすっと戻ってきて、落ち着く。

 

僕にはドイツでレストランに行ったとき、ひとつこだわっていることがある。裏メニューを作れないか聞いてみる、というもの。クリームパスタにエビを加えることはできますか?くらいの。OKがもらえたとき、頼めば何とかなるんだと嬉しくなる。それで顔を覚えてもらえることも。未知なる街では少しでも気持ちよく過ごせるように生活をアレンジするのも心を整える方法。

 

先輩に学ぶ。例えば1年年上の田中達也選手。年上だが友達のような付き合いをさせてくれる。達也のプロフェッショナルは間近で見させてもらった。練習前に入念にストレッチし、練習後も身体のメンテを欠かさない。みんなで飲みに行っても達也は絶対来ない。僕が夜にお酒を頻繁に飲んでいたころは「オマエそんなんじゃだめだぞ」と注意してくれた。

 

自分と向き合う方法は2つある。一つは孤独な時間を作り、ひとりでじっくりと考えを深めていくこと。読書や一人温泉。もう一つは尊敬できる人や仲間に会い話をすることで自分の立ち位置を客観的に見ることだ。僕はヨーロッパでプレーする日本人選手たちに会うたびにヒントをもらっている。

 

頑張っている人の姿を目に焼き付ける。日本では真夏の炎天下、工事現場で働くおじさん。腕まくりをして汗を流しているおじさんを見ると、僕はなんだかすごく熱くなる。早朝から家族のために頑張っているんだろうなと思うと、小さなことに悩んでる場合じゃないとエネルギーがわいてくる。お母さんが小さい子供を乗せて一生懸命こいでいる姿も好き。

 

仲間の価値観に飛び込んでみる。レッズの先輩である小野伸二さんはヴォルフスブルクへの移籍が決まった僕を心配して「ヨーロッパでは待っていたら誰も話しかけてくれない。ロッカールームではどんどん自分から話しかけていった方が良いよ」とアドバイスしてくれた。ドイツでチームメイトに最初に誘われて遊びに行ったとき、時計の針が夜中の2時を回りさすがに眠くなったので「先に帰るよ」と伝えたところ「何だノリが悪いじゃないか」とムッとされてしまった。次からは朝5時まで頑張るようにした(笑)

 

上から目線にならないよう気を付けているが、下から目線になってもダメ。媚びを売ったりゴマをすると自分自身を貶めてしまう。よいしょすれば気に入ってもらえるはずだという目で相手を見ることは、相手にとっても失礼だと思う。コミュニケーションは対等な関係であるべきだ。

 

組織の穴を埋める。ドイツのヴォルフスブルク時代、チームのバランスを最優先で考え、エゴが強い選手を支えようと思った。浦和レッズ時代をよく知るサポーターは「長谷部はもっと攻撃的なプレーをすべき」と、自分らしさを殺して我慢してプレーしているのでは?と感じたかもしれない。しかし焦らず我慢して継続すれば、いつか「組織の成功」と「自分の成功」が一致する。それを目指せば、組織のために自分のプレーを変えることは自分を殺すことではなくなる。

 

競争は自分の栄養になる。ドイツではジョスエ(ブラジル代表)とボランチのポジション争いで絶対に譲らなかったことで、チームメイトに「長谷部は頑固だ」となめられなくなった。高校時代のポジション争いで勝ったことで大きな自身が身についた。競争は自分を進化させてくれる。そう思うようになってから競争が怖くなくなった。ライバルになるような選手が加入しても、ポジション争いが厳しくなるが、「それによって自分がどう成長するか」という楽しみの方が大きい。楽しいことばかりじゃなく、つらいこともあるけど、逃げずに向き合い続ければ身体の隅々まで競争という栄養がいきわたる。

 

常に正々堂々勝負する。ドイツでリトバルスキーが監督になった。リトバルスキーは日本でJリーグでプレーしており、奥さんが日本人で日本語がペラペラ。よく日本食を差し入れてくれた。でも「チームにいるときは日本語で話しかけないでほしい」とお願いした。チームメイトにしてみれば何を話しているのか分からず、贔屓している感じがして、いい気はしないはずだから。普段から正々堂々と勝負していれば、たとえまわりから陰口が聞こえてきたとしても、まったく気にならない。逆にそういうことを言う人をかわいそうだなと感じる。サッカー選手としての力はピッチの上で証明すればいい。ごますりや媚びは自分の覚悟を弱らせてしまう。

 

運とは口説くもの。普段からやるべきことに取り組み、万全の準備をしていれば、運がめぐってきたときに掴むことができる。多分運は誰にでもやってきていて、それを活かせるか、活かせないかはそれぞれの問題なのだと思う。だから僕は試合後に「ついてね」「運がよかったね」と言われるのが嫌いだ。スペイン語で運(la suerte)は女性名詞。だからアルゼンチンの人たちは「運を女性のように口説きなさい」と言う。何も努力しないで振り向いてくれる女性なんていない。それと同じで運もこちらが必死に口説こうとしないと振り向いてくれない。

 

勇気をもって進言すべきときもある。京セラ創業者の稲森和夫は「判断に迷ったときは、人として正しいかどうかを考えるようにしている」と言っている。チームのために進言することは「人として正しい」ことだと僕は思う。だから進言するかで迷ったときは「自己保身のために言わないことのほうこそ、正しくない行動のはずだ」と考える。

 

努力や我慢はひけらかさない。努力や我慢は秘密にすべきだ。なぜなら、周囲からの尊敬や同情は自分の心の中に甘えを呼び込んでしまうから。もちろんすべたの努力を隠すわけじゃなく、聞かれたら答えるけど積極的に人には言わないようにしている。「そんなに努力していた、すごいですね」と褒められると、これもまた言い訳の「種」がでてきてします。試合に向けてどんな準備をしてきたかは自分自身だけが分かっていればいい。周囲からの尊敬や同情から生まれる甘えがあると、楽な方に流れてしまう恐れがある。

 

読書は自分の考えを進化させてくれる。レッズ時代は東野圭吾、宮部みゆきといった人気小説を読んでいた。ドイツに行ってからは哲学系の本が圧倒的に増えた。それはデール・カーネギーの「人を動かす」という本に出会ってからだ。ドイツではひとりでいる時間が増えて、よりサッカーや人生のことを深く考えるようになったというのも関係しているだろう。ちなみに僕は本を読んでも内容を鵜呑みにはしない。まず自分の場合はどうだろうか、この意見に同調できるだろうかと考えてみる。自分に通じると思う時もあれば、違うと思うときもある。特に影響を受けたのは次の6冊。

・本田宗一郎 夢を力に 私の履歴書(著者:本田宗一郎)・・・名言があふれている。例えば「惚れて通えば千里も一里。好きなものは時間を超越する。」

・道を開く(松下幸之助)・・・「日本のために」という言葉が何度も出てきて、日本代表として胸に響くものがあった。

・悩む力(姜尚中)・・・「真面目すぎる」というのがコンプレックスでもあった自分の、真面目さを肯定してくれて、背中を押された。

・人間失格(太宰治)・・・反面教師として好きな作品。自分に「逃げるな」と言い聞かせる意味で、よく読み返す。

・アインシュタインは語る(アリス・カラプリス)・・・100年にひとりと言われる天才も、普通の人と同じように悩みや弱さをかかえていたということを教わり、自分が悩むのも当たり前と思わせてくれた。

・幸せを呼ぶ孤独力(斎藤茂太)・・・積極的に孤独になろうと呼びかける本ですごく共感した。こんな一文がある。「日本人は古来和を以て貴しとなすを美徳としてきたせいか、周囲に迎合しようとしがちです。せっかくの個性も埋もれてしまいます。ときには孤立も恐れず、みんなに反対されても自分の意見を言おう。自分は世界にたった一人しかいないと腹をくくって、「孤独力」をもって自分を見つめれば必ず自分の心にある宝石に気づきます。

 

読書ノートをつける。僕はすごく忘れっぽいので、本を読んでいてせっかく「いいなぁ」と思う文に出会っても2,3日たつと忘れてしまう。だから印象に残った文は読んだらすぐにノートに書き写すようにしている。使うのは普通の大学ノートで好きなフレーズを書き写す。それに加えて、自分が何を感じ、何を考えたかも一緒に書き込むようにしている。一字一句正確に抜き出すことには、あまり気を使っていない。こういう印象に残った本を定期的に読み返すこともできるけど、そればかりだと新しく手に入れた本を読む時間がなくなってしまう。そこでノートに気に入ったフレーズだけを抜き出して書いておけば、時間を節約できるし、持ち運びも便利なので遠征にも持っていける。「読書ノート」で心の点検。僕の日課のひとつだ。

 

夜の時間をマネージメントする。「大一番で力を発揮するためにどうすればいいか?」とよく聞かれるが、僕はその時に「平穏に夜を過ごし、睡眠をしっかり取ること」と答える。寝るという行為は意外と難しい。普段から「いい睡眠」をとるために夜の時間をマネージメントできているかがカギとなる。

①リラクゼーション音楽を流す・・・お気に入りは「深き眠りへ・・・」というCD

②お香をたく・・・クンバ社の「ハッピー」。和のテイストを保ちつつ、バニラのような甘さのある香り

③高濃度酸素を吸う・・・ワールドカップ期間中、岡田監督から「寝る前に高酸素吸入器を30分つけるように」と指示された。回復力がupする

④特製ドリンクを飲む・・・ビタミンC,E、ルティンなどを混ぜた長谷部家特製ドリンク

⑤アロマオイルを首筋につける・・・ニールズヤード レメディーズ社の「ナイトタイム」というアロマオイル。森の中にいるような香り

⑥耳栓をする・・・ドイツ時代の相部屋から続く習慣

こういった工夫をして、南アフリカでは夜9時から準備をして、10時にベッドに入るようにしていた。大会中寝付けないことが一度もなかった。自分でも不思議なくらいに快眠でき、毎日10~11時間は寝ていた。睡眠は普段からのリズムが大切で、大一番の前夜に急に「いい睡眠をしよう」と思ってもうまくいかない。勝負所で結果を出すためには、日々のリズムを普段からどれだけ整えられるかにかかっている。

 

僕は一度やり始めるととことんハマるタイプ。僕個人の意見としては、ゲームやインターネットに時間を費やしすぎるのはもったいないことだと思う。それより映画を見たり、読書をしたり、語学の勉強をするなどしたほうが、はるかに自分のためになる。遊びたい気持ちもわかるが、ほどほどにしないといけない。息抜きも度が過ぎたら時間の浪費だ。便利な時代になっているからこそ、僕はITの恩恵を最小限に受けつつ、あえてアナログ的な時間の過ごし方を大事にしていきたい。

 

他人の失敗を、自分の教訓にする。僕は夜遊びをしている期間、ある相関関係に気付いた。夜遊びをしてたくさんお酒を飲んでいる選手ほど筋肉系の怪我をする確率が高かったのだ。アスレチックトレーナーに聞いたところ、お酒を飲むと患部が充血して、怪我の回復が遅れるそうだ。古傷の状態が悪化することもあるという。

 

楽な方に流されると、誰かが傷つく。今でも楽な方に流されそうになることがあるし、実際流されてしまうこともあるけど、そんなときは両親や恩師などの顔を思い浮かべると、みんなの存在が弱い心にブレーキをかけてくれる。

 

迷ったときこそ、難しい道を選ぶ。僕は岐路に立った時、あえて難しいと思った方を選択する、ということを意識している。無謀と思える挑戦もあったが、難しい道ほど自分に多くのものをもたらし、新しい世界が目の前に広がることを僕は知っているからだ。ちょっと背伸びをしたら向こう側が見えてしまう壁では物足りない。背伸びをしてもジャンプをしても先が見えない壁の方が、乗り越えたときに新たな世界が広がるし、新たな自分を発見できる。苦しみがあるからこそ挑戦は楽しい。常に難しい道を選び続けられる人間でありたい。

 

ワタミグループ創業者の渡邉美樹さんが言っていた。「最近の若者は会社をすぐ辞める。今の仕事が自分のやりたいことじゃないから次を探すという感じで。でも今いる会社で与えられた仕事をできないのでは、転職先でもできるわけがない。だから今の会社で我慢して、自分で本当にできたと思ったときに転職すればいい。それをやらずに人のせいにしたり、自分とは合わないからという理由ですぐに辞めていく若者が多すぎる」僕は渡邉さんの考えに大賛成だ。挑戦と逃げることはまったく違う。もし今いる場所で何もやり遂げられてないのなら、新たな道を探したりせず、そこに留まる方が「得るものが多い」はずだ。僕はサッカーを通じていろいろな経験をさせてもらった。今自分が言えるのは挑戦し続け、全力でもがき続けると人間は変われるということだ。中村俊輔さんのスペイン移籍を失敗だと言う人は、その人は挑戦をしたことがない人のはずだ。挑戦をした経験のある人なら、挑戦で何を得られるか知っているからだ。

→ブラック企業の代名詞としてワタミグループの働かせ方は問題視されて世間から叩かれていましたが・・・

 

大石監督の指導で印象に残っているのは、休みの日の弁当はおにぎりしか認めないということ。理由は「休みの日まで親に手間をかけさせてはいけない」から。両親を敬う気持ちも教えてもらった。

 

なぜ僕がサッカーを生業にしているかといえば、サッカーが好きなことは当然だが、「みんなで日本のサッカーを強くしていく」ことに使命を感じているからだ。同じ目的を持っている仲間がいて、仲間とともに前に進もうとしているとき、自分でも驚くような力が体の奥底から湧き上がってくることをブンデスリーガやワールドカップで経験させてもらった。僕にとってこれから日本サッカーがどうなっていくかに思いをはせることほどわくわくすることはなく、その大きな波の中に自分がいる幸せを感じている。